単旋律の合唱に関する話、とか

uchiochan2006-01-13

最近、単旋律のよさというものを感じます。
これまでモーツァルトの晩祷の中に単旋律が組み込まれていたり、
オケゲムのレクイエムの余り(Sanctus以下)が
グレゴリア聖歌だったりして、その良さを実感していたのですが、
この間の正月CD大量購入のときに、
単旋律のみのCDを2枚買いました。

Anonymous 4

1枚は、アノニマス・フォー*1の『ヒルデガルド・フォン・ビンゲンの
音楽と情景』という一枚。ヒルデガルドとは1098-1179に生きた
女性作曲家だそうで。女性というのがなんとなく珍しい気がします。
(余談ですが、恐らくこの時代は作曲家が曲に自分の名を記す、というのは
あまり一般的ではなく、多くが"anonymous"(詠み人知らず)となっていたはず。
すると名前が残っているだけで、ある程度珍しいのかもしれない。)
しかしそのメロディーは秀逸。とても神秘的で宗教心を感じさせる旋律です。
ごくたまに5度のハーモニーなどが入るのですが、それ以外は単旋律です。
有名な作曲家なのか、ぼくは全く知らないのですが、しかし優れた
作曲家であることは事実。ていうか多分有名なんだきっと。
ところでアノニマス・フォーとはザ・シックスティーン*2と共に、
そのあまりの団体名のダサさから、敬遠していた団体のひとつなのですが、
実際聴いてみると思いのほか上手い。女性アンサンブル。さすが有名な団だけある。
深い声で、ユニゾンもきちんと揃っていて、正に理想的な女声合唱。
ていうかAnonymous 4(名もなき4人)というくらいだから、
メンバーは匿名で、コンサートもスリップノットのように
覆面で行うのかと思いきや、ブックレットにしっかり4人の名前が表記されており、
あまつさえ化粧の濃いオバサン4人の写真まで載っている。
これには唸りました。顔が濃い。しかし声は綺麗。ううむ。
ていうかいま辞書で「anonymous」と調べてみると、「匿名の」という意味のほかに、
「個性がない」という意味が載っていました。つまり、
没個性と呼べるほどにクセのない声ということか。納得。
他にも腐るほどCDを出しているようなので、いずれ手に入れて聴いてみたいです。
そして有名団体だからそのうち来日するはずなので、いずれ生で聴いてみたいです。
女声合唱に関しては一言述べたいことがあるのですが、ここでは割愛。

長い名前の聖歌隊×2

2枚目は、ミュンスターシュヴァルツァッハ修道院聖歌隊・ベネディクト派修道院コーラルスコラ*3
の『聖ベネディクト修道院長の記念日のためのグレゴリオ聖歌』。
こちらはグレゴリオ聖歌ですが、むむむ癒し系。
グレゴリオ聖歌は数年前流行ったそうですが、ぼくはその当時NYにいたのか
そのことは知りませんでした。シャンティクリア*4がヒットの原因になったとか?
シャンティクリアについては書きたいことがあるのでいずれ。
もはや人間業ではない演奏なのにそれほど評価されていないような気がするのは
いかがなことか…もはや演奏が神がかり。いやシャンティクリアの話をしてるんじゃなかった。
ちなみにグレゴリオ聖歌とは男声の単旋律斉唱で、グレゴリウス一世なる人物が
編纂したそうですが、この聖歌はひとつのテキストに対してひとつのメロディーしか
存在しないのでしょうか?そしてよくミサ曲のGloria、Credoなどの最初に歌われる
定旋律とは、グレゴリオ聖歌由来なのでしょうか。その辺全く詳しくないので、
大学に入ったら単旋律〜複旋律に至るまでの流れ、ルネッサンス音楽について、
合唱音楽の宗教的背景、などなどいろいろ勉強してみたいです。
聴いているだけじゃイマイチわからない。
そういえばグレゴリオ聖歌というのは、予想外の高さに音が跳ぶのが面白いですね。
ルネッサンス以前の音楽はそういう意外性みたいなものがあるのが楽しいです。
ルネッサンス音楽でも奇妙なのは沢山あると思いますが。

話が逸れてオケゲムの話、とか

話が逸れてきましたが、ルネッサンス音楽の中でも最もショッキングだったのが、
オケゲムの「ミサ・ミミ」。もはや数学的ともいえるほどに緻密に構成された
各声部の絡み合いと、メロディーの面白さがぼくの心を虜にしました。スゲェ。
ちなみに所有しているのはいまのところヒリヤード・アンサンブル*5のもののみ。
こういう曲を作曲するオケゲムもすごいですが、それを正確に演奏する
ヒリヤード・アンサンブルもまたすごい。なによりもすごいのが、
このような複雑な曲に対しても、各声部の主張がものすごく大きいところ。
ふつうの国内合唱団ですと、難しい曲を演奏する場合、「合わせよう」という
意識が大きすぎる余り声が小さくなったり、響きがお留守になったりして、
小さくまとまって聴き応えのない演奏になりがちになったりすると思うのですが、
その点西洋の合唱団は、「オレがオレが」といわんばかりに、
一人ひとりがものすごく声を出す。そしてそれでいながら演奏が揃っている。
(いやまあ超一流のプロだからというのもありますけど)。


これにはやはり、以前も書いた日本人の「恥の意識」というものが
関係しているのではないでしょうか。アマの場合、「ここでオレだけ前に出たら目立つよな」
などの恥の意識がはたらき、「まあ、とりあえずまわりに合わせよう」という意識が
大きすぎるために、どんどん演奏が小さくなってゆく。
これは多くの(アマチュア)国内合唱団に当てはまることなのではないでしょうか。
ホントはあんまり数を聞いたことがないから断定はできないのですが。テヘ。
ここからは推測ですが、一度この「オレだけ前に出たら…」というためらいを超えて、
全員が「オレが前に出ないと…」という意識に変革できたならば、
ものすごく主張の大きい、立派な合唱団に成長できるのではないでしょうか。
別の観点から書くと、例えば自分以外の団員が「みんなに合わせて・・・」と
小さく歌っていると、自分が豊かな響きで主張のある声で歌った場合、
周りの声が小さくて聴こえなくなる。だから必然的に小さくまとまらざるを得ない。
ですから、全員が「声を遠くに飛ばす(もちろん力んじゃダメよ)」という意識を
持たない限り、主張のある合唱を作り出すことは困難だ、とも言えるでしょう。
いやーでも日本人に生まれてきた以上難しい。
こんなこと書いておきながらなんですが、ボクにもまだ厳しいです(笑)
とりあえず発声だな発声。

さらにまたオケゲムの話、リズムおかしいよオケゲムさん

ああまた話がそれた。
オケゲムヒリヤード・アンサンブルの話をしていたんだった。
(いや、その前に別の本筋の話があったような気が…)
とにかくですよ、オケゲムのような変態的な曲を、
ヒリヤード・アンサンブルのような硬い声・硬い演奏(要所要所をカチッ、カチッと
決める。悪く言えば滑らかさに欠ける)で正確に演奏すると、ドエライことになる、
ということです。オケゲムとヒリアンというのはものすごく相性がいい感じ。
ところで問題の「ミサ・ミミ」ですが、楽譜がネット上に公開されているので、
下にリンクを張っておきます。興味がある方はどうぞ。
かなりテンポが速いので(ヒリアンの好み?)、余計に難しく聴こえる。
Gloriaが特に難しそう。聴いてると楽しいけど。


オケゲムつながりでもうひとつ。ヒリアンの同じCDに彼のレクイエムが同時に
収録されているのですが、そのうちのOffertoriumは、声部によって拍子が
違うという神業をやってのけています。こんなことを500年前にやっていいのか?
参考までに書いておくと、アルト・テナー・バリトン・ベース(この時代は
確か男声のみで演奏されることを前提としていたのでは?ヒリアンは男声アンサンブルです。)
の順番で、3/1(2/2)、2/2、3/2、3/1(2/2)拍子。これだけではありません。
バリトンは、音楽が進むにつれ、3/4→1/2→9/4→2/2→9/4→3/2→6/4→2/2→6/4→2/2→
6/4→12/4(6/4)→1/2→6/4→2/2→6/4→2/2→…(書くの疲れた…)というように
ほとんど小節ごとに拍子が変わるという悪夢のような曲。
楽譜を眺めていると、もう少し簡単な表記ができるんじゃないか?と思うのですが、
どうなんでしょうか。なんにせよバリトンは並みの人間じゃ歌えません。
ヘタなジャズやアヴァンギャルドミュージックよりキツい内容。
例えるならば、歌い手のクセ丸出しのポップスの曲を、無理やり楽譜にしたような感じ。
それでいて各声部のバランスが取れているという、神業のような曲。
蛇足が過ぎて申し訳ないのですが、広辞苑で「オケゲム」と調べると、
「対位法の巨匠」と出てきました。「対位法の神サマ」に直したほうがよいのでは?
これもリンクを張っておきます。見てるだけで楽しくなる楽譜。ワケワカラン。


ちなみにヒリアンでバリトンを歌っているのは元指導者のポール・ヒリアーさん
(数年前に脱退し、ヒリアンはいま各声部1人ずつ、4人のアンサンブルとか。
4人になってからは聴いたことないです。)で、彼は「声が硬すぎる」とか
賛否両論のようですが、個人的には、明るい響きとか暗い響きを使い分けられて、
かつリズム感も正確(あのオケゲムを軽く歌いこなすほどですから…)なので、
すごい人なんだなぁと思います。ちなみにヒリアンをやめた今は、
いろんな団を指導してらっしゃるようです。
エストニアフィルハーモニー室内合唱団とか、シアター・オブ・ヴォイスィズ*6とか。
他にもあるかも。シアター〜はやはり名前のダサさから敬遠している団のひとつなのですが、
いずれ聴いてみたいです。ポールさんが指揮してるんだからスゴイに違いない。
(シアター〜はヒリアンをやめる以前から指揮をしていたようですちなみに。
もしかしたら歌っているのかも。)



かなーり雑多な内容になってしましたが、まあCD紹介ということでこの辺で。アディオス。


「火のみなもと」 [Import] (ORIGIN OF FIRE (HYBR)|ORIGIN OF FIRE (HYBR))

「火のみなもと」 [Import] (ORIGIN OF FIRE (HYBR)|ORIGIN OF FIRE (HYBR))

http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=924902&GOODS_SORT_CD=102
Requiem/Missa Mi-Mi

Requiem/Missa Mi-Mi


http://wso.williams.edu/cpdl/sheet/ock-mimi.pdf
http://icking-music-archive.org/scores/ockeghem/requiem/jo_pd_offertorium.pdf

*1:Anonymous 4

*2:The Sixteen

*3:Munsterschwarzach, Choralschola der Benediktiner-Abtei この和訳を探すのにどれだけ苦労したことか…

*4:Chanticleer

*5:The Hilliard Ensemble

*6:Theatre of Voices