責任の所在と悲観主義と忘却に関する話

責任の所在というものを、いつも考えます。物事には大抵原因がある。
ぼくがぼくのようなどうしようもない人間になったのにも原因がある。
ぼくがぼくのように大変な苦痛を強いられているにも原因がある。
ぼくがぼくのように、日々死にたいと思い続けているのにも原因がある。
以前は、自分はそれを、育てた親の責任であると思っていました。
人格の形成というのは家庭的(遺伝的)素因と、環境的素因の2つが相互に関係しあって
成されるそうです。ぼくには遺伝的欠陥もあるし、子育ての上で環境的欠陥もあった。
しかしあるときから、親が親のようになったのにも、原因があるのではないか?
と考えるようになりました。親を育てたのは、ぼくの祖父母です。
そうすると、ぼくがぼくのようになったのは、祖父母のせいであるか。


もちろん、そうではありません。
祖父母を育てたのは、曽祖父母です。その上も果てしなく続きます。
そのままさかのぼれば、最初の人間、アダムとイブに辿り着くでしょう。
一つはそのように考え、アダムとイブの原罪に責任があると考える。
あるいは、神が悪いのだということもできるでしょうか。
アダムとイブを作ったのは神ですから、神にも責任の一端があるはずです。
(キリスト教の話ですが、それはまあおいといて。日本は多宗教ですから。)


もう一つは、「偶然」という側面から考える。
一つは、遺伝子。遺伝子には突然変異というものがあって、ある確率で、
塩基配列に乱れが生じる。これは偶然の結果です。
あるいは、環境的素因。仏教の言葉でいうと、縁、とでもいうのでしょうか、
とにかく人生の上での巡り合わせのことです。
突き詰めればそれだって大抵他人の行動に基づいているのですから、
偶然とは言えないのかもしれませんが、総体的にみて、
あるいは自分を中心に考えると、ほとんど偶然に起こったと考えてもいいでしょう。
そのように考えれば、自分が自分のようになったのは偶然の結果であるとも考えられる。


一つは神。もう一つは偶然。宗教上では、ほとんど同値と言っていいでしょう。
神は人知が及ばないという点で偶然であり、あるいは、偶然も神の意思によっている
という点で、神の行為の一つである。どちらにしろ、ぼくたちの手の及ばないところにある。
手の及ばない以上、考えても仕方がない。そう考えることは、可能である。


あるいは、仏教的にいえば、全ては空ですから、そもそも責任があるとか、
原因があるというのは間違っている。それは自分がある価値観を通して
物事を判断しているからであって、空の目で見れば、仏の目で見れば、
無分別智の境地で見れば、どうなるか。どうなるかは、ぼくは
悟りを開いていないのでまだわかりません。ですが、恐らく
責任というのものを考えることは無意味になるはずです。


もう一つ。昨日だったか一昨日だったかNHKの健康番組(朝TVをつけっぱなしにしていたので)
を見ると、そこであるタレントが、「自分のストレスのコントロールの仕方は、
忘れることです。」といっていました。
確か五木寛之さんも、『生きるヒント』(1か2か3か)の中で、
辛いこと、怒りを感じることは、忘れるのが一番いい。
あるいは、茶化すのが一番いい。例えばひらがなで考えるとか。
ということを書いていたはずです。これはとてもいい考え方です。
責任があるとかないとか、そんな難しいこと、あるいは無駄なことはそもそも
考えず、忘れる。まあいまのことだけを考えればいいではないか。
あるいは今がつらいなら、かつて楽しかったときのことでも、
これから楽しくなる可能性が少しでもあることを考えればいいではないか。
そのように考えるわけです。


少し話しは逸れますが、確かショーペンハウエルは、
「人間が動物と区別されるのは、思考が過去にも未来にも及ぶことである。
動物は現在のことしか考えることはできない。
そうすることによって人間は快楽を増幅することができたが、
同時に苦痛も大きくした」というような趣旨のことを書いていました。
つまり嫌な過去のこととか、どうしようもない未来のことを考えるから、
余計に辛くなるというわけです。それならば、忘れてしまえばいい。
動物的に考えればいい。今のことを考えればいい。
もしくは、もし今が辛いならば、なにかしら楽しいときのことを想像するといい。
『夜と霧』を書いたフランクルは(読んだことないですけど…読んでみたい!)、
アウシュビッツに収容されたものの生きて帰った人らしいですが、
彼は文字通り死ぬほどに辛い状況の中で、「毎日一つジョークを言うこと」を
日課していたそうです。彼を見習って、毎日一つなにか楽しいことを夢想する、
というのもいいことかも知れません。とにかく、悲惨な状況にあるとき、
思考はなるべく悲惨な方向に向かわないほうがいいということです。


いろいろ書き、取りとめもないですが、なにか参考になれば幸いです。
それではまた。