太宰治について

神に問う。無抵抗は罪なりや?

(『人間失格』より)


いま、テレビで太宰治のドラマを見ています。


太宰は、ぼくの人生を決定的に変えました。
いや、ぼくの人生そのものと言ってもいいかもしれません。
もとより彼は本当のことを書きません。
嘘かと思えば本当だし、本当だと思えば作り事。
それでも彼の書いたことの中に、自分の真実があるような気がする。
そんな魅力的な作家です。

金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の命、保たず。

(『HUMAN LOST』より)


浪人生の気持ちも、この通り。
「いつわりでよし、プライドを、自由を、青草原を!」(同上)


いまは全集を読んでいます。
浪人中なので、自由には読書できませんね。
特に長編小説は厳しい。なので、読み終わるにはもう少しかかりそうです。
ちくま文庫から、文庫版の作家別全集が出ています。
文庫版なので持ち運びもできますし、値段も手ごろです。いいですよ。
ただし、太宰治に関しては、小説しか収録されていません。
(他の作家に関しても、そうであることが多いようです。)
ちくま文庫の全集を読み終わったら、初期作品集(学生時代の創作)、
書簡集なども手に入れたいと思っています。
もっとも太宰自身は、書簡集などで作家の実生活を
のぞき見ることをよしとしなかったのですが。


『女生徒』という作品があります。
この作品の元になったのは、有明淑(ありあけしず)という読者が
太宰の元に送ってきた日記です。『有明淑の日記』として2000年に、
青森県近代文学から刊行されています。ぼくは最近手に入れました。
『女生徒』の文章はほとんどがこの日記の中にあります。
まだ少ししか読んでいないのですが、とても面白い日記です。


また『斜陽』という有名な小説があります。
これはいまドラマでもやっていますが、太宰の愛人の太田静子が書いた日記が元
になっているそうです。『斜陽日記』として簡単に手に入るようです。
いずれ読んでみたいと思っています。他にも他人の作品を題材にして
書いた小説がいくつかあるそうです。


中学生の卒業論文は、太宰治について書きました。
が、書き終わりませんでした。彼の生涯もまた、作品以上に興味深いです。
とても、短期間で書き尽くせるものではありませんでした。

「須々木乙彦、というのは、あなたの親戚なんですってね?」あなた、といったり、君といったり、助七は秩序がなかった。
「いとこですが。」青年は、熱い牛乳を啜っていた。朝から、何もたべていなかった。
「どんな男です。」真剣だった。
「僕の、僕たちの、――」青年は、どもった。
「英雄ですか?」助七は、苦笑した。
「いいえ、愛人です。いのちの糧です。」
その言葉が、助七を撃った。

(『火の鳥』より)


もとより彼はダメ人間です。ぼくはダメ人間だから、彼のような人間が好きなのです。

人はしばしば、自分が不幸に見えることにある種の喜びを感じることによって、不幸である自分を慰める。

(ラ・ロシュフコー箴言集』より)


彼ほどこの言葉が似合う人はいないでしょう。

蝉は、やがて死ぬる午後に気づいた。ああ、私たち、もっと仕合わせになってよかったのだ。もっと遊んで、かまわなかったのだ。いと、せめて、われに許せよ、花の中のねむりだけでも。
ああ、花をかえせ! (私は、目が見えなくなるまでおまえを愛した。) ミルクを、草原を、雲、―― (とっぷり暮れても嘆くまい。私は、――なくした。)

(『HUMAN LOST』より)


近ごろは、仏教に出会ってからは、太宰のことを少し客観的に
考えることができるようになりました。
彼は主観抜きには語れない、そんな魅力も彼にはあるような気がします。
太宰治を卒業するときが、大人になるときだ』
そんなことを言う人もいます。しかし、ぼくはそうは思いません。
本当に苦しみ悲しんだ者のみが、彼を理解し共感できる。
彼の言葉は、血肉となる。
ほくはそのように考えます。


だから、ぼくは太宰治を愛しています。


それではまた。