『日本の弓術』

以前、シュッツ合唱団の練習中に、淡野先生から『日本の弓術』(オイゲン・ヘリゲル述)という本に基づいた指導があった。


則ち、歌は常に意識的でありながら無意識的でないとならない。(門外不出の教えですがどうかお許し願います。)


それを、今日偶々、古書肆にて上述の書籍を発見した。価格にして二百円であった。然れどもその価値たるや一国をして購うこと不可なり。


ヘリゲル氏は東北にて阿波師範に弓道を習いしドイツ人であった。曰く、「…しかしそれはどうあろうと、両者(弓と矢を使うとき無心となり無我となり無限の深みへ沈み去ることと、仏陀のように両手を組み静座して思いを沈めること)いずれにも決定的なことは、平静に無念に無我になるのであって、単にそうなったと思いこむのではないということ、『無』になり実際に『無』に帰せられるのであって、単に自分を無意味な『有』と『感じる』のではないということである。」


実に文字通り、的を射た述懐である。歌い手は、究極的理想的には、常にこの精神を忘れずにいなければならない。